心の椅子

精神的支えのことを「心の椅子」と呼んでいます。思わぬ体調不良の予防に役立つと思い、このブログを立ち上げました。

【さみしさの研究6】プラネテス(ネタバレ注意)

 ふと漫画『プラネテス』を思い出しました。近未来のデブリ宇宙ゴミ)回収業の乗組員たちの物語です。コミカルな話も織り交ざっている分余計に、シリアスな話が胸にささります。

 主人公ハチマキ(星野八郎太)が、事故で宇宙空間を漂流した後、感覚剥奪室(音や光が一切ない部屋)にいるだけのテストに耐えられなくなってしまう話があります。もうひとりのハチマキが現れて、夢(宇宙飛行士になること、船を持つこと)の否定やネガティブ発言をしてきます。閉所への恐怖は、自分の心の闇の声が聞こえてくるのと相関があるのでしょう。

 木星往還船を見学させてもらうことで、ハチマキは奮起し、本格的にその乗組員に成ることを決意することによって、もうひとりのハチマキは一旦去ります。(「……今は去ろう だが気を抜くなよハチマキ」「オレはいつでもあらわれるぞ」という言葉を残して)

 もうひとりのハチマキは、その後も時折現れてハチマキに冷笑を浴びせます。それに反発するかのように、ハチマキが乗組員のテストに通過していくほどに、精神的にマッチョになっていくのも不気味で怖い感じがします。

 その頃、デブリ回収業の後任者としてやってきた女性のタナベは、とかく愛を語る人です。ハチマキはタナベを青臭く感じますが、「とにかくその時 このタナベが宇宙へはいりこんでくるのを オレは阻止できなかったんだ」と語ります。

 ある夜眠れないハチマキにもうひとりのハチマキが現れ、イヤガラセを受けます。「全部オレのもんだ 孤独も苦痛も不安も後悔も もったいなくてタナベなんかにやれるかってんだよ」「オレ一人で十分だ」「テメェ近いうちにギッタギタにノしてやるぞ覚悟しとけよ」とハチマキは言い放ちます。

 この頃のハチマキは、木星往還船の乗組員になるためなら、人を殺しても構わないくらいに考えています。もし、タナベが登場しなければ、目的のためならどんな非情なことでもする修羅になったのかもしれません。実際あわやというシーンがありましたが、そこを救ったのはやはりというべきか、タナベでした。

 ハチマキの心は、その後も激情的になったり、逆に失感情的になったりで大変な中、木星往還船への旅が始まります。その直前にタナベと結婚し、心の平安がやっと訪れます。木星に到着する際のスピーチを任され、「でも 愛し合うことだけが どうしてもやめられない」という言葉を人類に伝え、物語は幕を閉じます。

 ハチマキの孤独の旅が、今読むと結構辛いなと感じます。よくこんな精神状態で、乗組員の試験を通過できたなと思います。孤独な心を癒やすような女性と巡り会えて、本当によかったと思います。単行本は全4巻ですが、他の登場人物の話もすごく良くて、重層的な物語になっています。